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魂の器(うつわ)

前回は、アーノルド・シュワルツネッガー主演映画の
「The 6th day」 を通して、
クローン人間の製造法について考察してみた。

「シックスデイ」には、もう1つ大きなテーマが存在する。
それは、クローン人間の「記憶」「人格」「魂」である。

「シックスデイ」では、
クローン人間は、元となる人間のDNAを注入され、
急速に人間へと変化し、
元の人間と外見上(おそらく、内面上も)全く同一の体となる。

また、元となる人間の視神経から得られた記憶情報が
脳にインプットされることにより、
完全に同一の記憶が伝達される。

しかし、それはあくまでも全く同じ記憶を持つというだけで、
同じ魂(命というべきか?)を共有する訳ではない。

非常に似通った、ほとんど同一の人格を持つであろうが、
個体としては明らかに別人である。

---------------------------------------------------

こうして見ると、我々の人格とは何か?
ということに行き着いてしまう。

人格形成には、記憶は不可欠である。
それまでに得てきた知識、経験、感情、それら全てによって
人格が構成される。

記憶喪失になったことにより、人格が変化した例は多い。
粗野な人がおとなしい性格に変わったりする。

行動は人格に左右され、人格は記憶に左右される。
時には、行動が直接、記憶によって左右される場合もある。
もちろん、そこには何らかの行動基準が存在する。

 

行動 ← 人格 ← 記憶
 ↑_ _ _ _ _ _ _ _ _ ↓

 

私が思うに、
(情報システム理論の専攻では無いので、
 おかしな点があっても笑って許して頂きたい)

「記憶」とはパターンデータであり、
「人格」とはプログラムであり、
「行動」はそのアウトプットであると思う。
そして、その行動の「きっかけ」となる事象が
インプットとしてのパラメータデータ(条件変数)である。

 

 パターンデータ  (記憶・知識)
    +        ↓↓
  プログラム    (人格)
    +
 パラメータデータ (きっかけ・刺激)
    ↓↓↓
  アウトプット   (行動)

 

だが、このシステムモデルでは、
人間情報システムを表現しきれてはいない。
これだと、ただのソフトウェアにすぎない。

人類がここまで文明を進歩させることができたのは、
過去の自分の経験から学ぶことができるからである。
つまり情報フィードバック能力の高さによる。

情報フィードバックによって、
パターンデータ(記憶・知識)の情報量と正確性は高まる。
また、プログラム(人格)も同時に改良される。
失敗は成功の素、
次からは成功する確率は高くなる。

 

 パターンデータ (記憶・知識) ←----------
    +        ↓↓            ↑
  プログラム    (人格)←-------------↑
    +                       ↑
 パラメータデータ(きっかけ・刺激)       ↑
   ↓↓↓                     ↑
  アウトプット   (行動・結果)-----------↑


こうして、この無限ループによって、
人間の脳は成長するに従って急激に発達していく。

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さて、クローン人間の「記憶」「人格」「魂」に話を戻そう。

「シックスデイ」製法において、
ある時点の「記憶」と「人格」を移植されたクローン人間は、
おそらく生まれたその瞬間は、
オリジナルと同一人物といっても良いだろう。

しかし、次の瞬間から、別の「人格」へと別れ始めるはずだ。
クローン人間に対して
オリジナルと全く同一のパラメータデータ(刺激)を
与え続ける事は難しい。

実験室でマウスのように檻に一緒に閉じこめておけば
可能かもしれないが、
少しでも異なる環境に置かれれば、
各自が受ける「刺激」は確実に異なる。

仮に「刺激」の内容が同一であっても
その受ける時間(タイミング)が異なれば、
それだけでも、アウトプットとしての「行動」はずれてくる。

また、行動の結果から発生した
フィードバック情報によって影響を受け変異する
「記憶」「人格」にもずれが生じてくる。

最初のわずかなずれは、
フィードバックの無限ループによって、
何万倍にも(何億倍にも?)増幅されて、
最終的には大きなずれとなるのである。

一週間、それぞれ異なる環境で過ごせば
観察者であればわかる程度の「人格」の違いが出てくる。
3ヶ月間後には、誰が見てもはっきりわかるような
言動、雰囲気、気質の違いがあるはずだ。

全くあかの他人でなければ、
一卵性双生児であっても、見分けられるのはこの為である。

実は、一卵性双生児こそ、同一の遺伝子を持つ訳だから、
天然のクローン人間だと言える。

しかし、記憶がゼロから始まる為、
全く別の記憶・人格を持つ「他人」なのである。

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最後にクローン製法の違いによる倫理的問題について
考えてみたい。

クローン人間を作ることが犯罪かどうか?
現時点では、犯罪である。
なぜなら、法律で禁止されているからである。

では、倫理的にはどうか?
倫理観については、人それぞれ異なる。
一般的な倫理観なるものが果たして存在するのか怪しい。
あるとしたら、それは多数決の結果にすぎない。
この世の中に絶対的に正しいことなど存在しない。

従って、ここでは、科学的、技術的、法律的側面から、
そしてクローン人間側の立場に立ってみた上での、
私の見解を述べよう。

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1.まず、クローン技術は完璧でなければならない。
  せめて、通常の出産における先天異常出生率を下回るべきだ。
  不完全な技術で行うのは、ただの人体実験である。

  映画「エイリアン3」で、主人公の女性クローンが、
  「エイリアン2」の主人公の女性「リプリー」の血液から、
  エイリアンの遺伝子と完全(?)に分離され、
  完全な人の形を持つようになるまでには、
  何十人もの失敗クローンが作られている。
  実に痛ましい光景だ。

  子供の時に博物館で見てトラウマとなるほど衝撃を受けた、
  ホルマリン漬けの「三つ目の豚」を思い出した。


2.技術の完全性をクリアした上で、
  クローン人間を作る事自体は倫理的な問題は無いと思われる。

  少なくとも、人為的に生命を生み出そうという点では、
  対外受精や顕微受精と大差ない。
  手順がやや複雑なだけである。

3.クローン人間を生み出す前に、
  彼らの人権を保障する法整備が必要である。

  クローン人間を普通の人間と同様に出産させ、
  普通に育てていく方法を用いる限り、
  オリジナルとは独立した人格と記憶を持つ
  一人の人間として成長する。

  従って、選挙権、教育を受ける権利等、
  人間として扱うべきである。

4.また、財産の権利ついても厳密に定義する必要がある。
  クローン人間はその人の細胞があれば、
  勝手に作ってしまう事が可能な為、
  遺産相続争いの渦中に巻き込まれる可能性がある。

5.クローン人間に対して
  「人間」と全く同一の権利を認めるのであれば、
  あくまでも、クローン人間を作ることが許されるのは、
  オリジナルの人間が承諾した場合に限るべきである。

  そうしないと、オリジナルの「人間」の
  すり替えに利用される可能性がある。

  もっとも、すり替えは、
  通常、犯罪行為の一環として行われると思われ、
  オリジナルの承諾無しに
  秘密裏でクローン人間が作られてしまう限り、
  防ぐことはできない。

6.仮に違法的に作られたクローン人間が発見された場合、
  関係者は厳重に処罰されるべきだが、
  クローン人間の人権は保障されるべきである。

  クローン人間自体には罪がないのである。
  だからといって、
  オリジナルの資産の共有所有権や
  遺産相続権を持つことはできない。
  あくまでも人として尊重されるという事だ。

7.別人格として成長したクローン人間に
  オリジナルの人間の記憶・人格を移植することは、
  殺人に等しい行為である。

  命は奪わなくても、その所有者たる前の人格を消去し
  体を乗っ取る行為であるからだ。

   ※ここで、「魂」は人格と記憶によって形成される、
    抽象的な概念であると仮定している。
    もし、「魂」という物質?が別に存在するのであれば、
    人格と記憶以外に、「魂」の移植が必要になる。

8.自分の臓器移植の為に、
  クローン人間を生み出すことは原則として、
  禁止しなければいけない。

  クローン人間も一人の人間である。
  臓器移植の為に命を落とすのであれば、
  立派な殺人行為であるといえよう。

9.しかし、死に至らない臓器移植(2つ以上ある臓器)や
  輸血用血液などの場合は、
  クローン本人の了解が認められた時に限って認めるという
  ことも考えても良いかもしれない。

  もちろん、臓器売買の可能性もあり得るので、
  厳密な審査が必要だろう。

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「シックスデイ」製法では、
クローン人間の記憶・人格が存在しない「素体」
に記憶・人格を注入するので、
殺人にはあたらないだろう。

その点では、倫理的問題をクリアするのではないだろうか?
そして、オリジナルが老衰または病魔に冒された場合、
クローン人間を作り、
それに記憶と人格を移して乗り換えていけば
自我としては、永遠の命を手にすることができるはずだ。

その際、ファイルのコピーと同じような感覚で
記憶・人格の移し替え作業が行われるに違いない。
そうなれば、星野鉄郎のように、
機械の体を手に入れる為に
銀河鉄道999に乗って旅を続ける必要は無い。

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極楽座連載エッセイ「設計図」第26回テーマ
「魂の器(うつわ)」
流音弥(2001年7月18日)より

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