痴呆の呼称について
今年4月に
「高齢者痴呆介護研究・研修東京センター」など3団体が、
「痴呆」という呼称の見直しを求める要望書を
坂口力厚生労働相に提出した。
「痴呆」という呼称が
患者への差別・蔑視・人格否定の原因となるとして
呼称変更が必要だ
という主張によるものだ。
私自身以前から、
「痴呆」という単語が大嫌いで、
目にするだけでも嫌だったので、
非常に良いことだと思う。
===================================================
【痴呆(ちほう)】とは?
デイリー 新語辞典(三省堂)
(1)愚かなこと。
(2)一度獲得された知能が,
後天的な大脳の器質的障害のため進行的に低下する状態。
老年痴呆・進行麻痺・アルコール精神病・頭部外傷・
癲癇(てんかん)・分裂病などでみられる。痴呆症。
大辞泉(小学館)
(1)ある人の知能程度が、
同じ年齢の人々に比べてはなはだしく劣っている状態。
また、そういう状態にある人。
(2)正常に発達し獲得された知的能力が、
脳疾患や老衰などによって低下し、もとに戻らない状態。
広辞苑 第五版(岩波書店)
いったん個人が獲得した知的精神的能力が失われて、
元に戻らない状態。ふつう感情面・意欲面の低下をも伴う。
脳の腫瘍・炎症、中毒・血液循環障害などに由来。
加齢によることもある。
老人性痴呆・麻痺性痴呆の類。
===================================================
以上の主要な辞書における定義から分かるように、
「痴呆」は
「痴呆症」という病名の略称だけでなく、
「愚かなこと」
「知能が同年齢の人に比べてはなはだしく劣る」
といった、侮蔑的意味を持っている。
いや、むしろ、
「侮蔑的」ニュアンスのある、
後者の意味こそがオリジナルであることを
まず理解する必要がある。
「痴呆症」は
「痴呆」状態にある症状ということから、
痴呆高齢者の増加に伴い、
後から命名されたという経緯があるのだ。
考えてみれば、
10年ほど前は痴呆老人を「ぼけ老人」と呼んでいた。
「痴呆」が進行するという言うのではなく
「ぼけ」が進行するというのだ。
「ぼけ」という言葉は、
「ねぼける」「時差ぼけ」「天然ぼけ」
「おおぼけ」「ぼけなす」「この、ぼけ!」など、
そそっかしさ・そこつさをあらわすので、
一見、ほほえましいような印象もあるが、
結局、言っていることは同じである。
侮辱以外の何ものでもない。
残念ながら「ぼけ」を未だに平気で使う人が多い。
興味深いのは、
以前は、救いようのあった「ぼけ」という言葉が、
「ぼけ老人」という使われ方をされるようになって、
逆に「ぼけ」という言葉のイメージ低下につながった点だ。
今では、「ぼけ老人」でない人に対して
「ぼけ」と呼ぶ場合は、
明らかに悪意がこめられていると言ってよい。
例えば、
「あいつ、ぼけてるんじゃないの?」
というような使われ方をする事が増えている。
さすがに、「ぼけ症」「ぼけ障害」という疾患名は、
「ぼけ」の意味するところが抽象過ぎて、
医学的には採用されなかったが、
その代わりに、
「ぼけ」に比べて
はるかに侮辱、人格否定、人間否定の意味が込められた
「痴呆症」が採用されたのだった。
ちなみに、
痴呆を英語では、dementia と言う。
dementは、de-mental
すなわち、正常な精神状態から離れていることを意味する。
つまり、「狂気」の一種を意味する。
===================================================
ところで、疾患名呼称の変更と言えば、昨年夏に、
「精神分裂病」の呼称が
「統合失調症」に変わったのが記憶に新しい。
「精神分裂病」と言うと、
「精神」そのものが分裂してしまうというイメージがあり、
恥ずかしながら、私も長い間そう思っていた。
疾患の誤解・患者の人格否定、差別を生む原因になるとして、
平成14年8月に開催された日本精神神経学会総会で
「精神分裂病」 の病名は正式に「統合失調症」に変更され、
社会的な啓発運動も実施された。
そのかいあって、呼称変更は順調に進み、
疾患のイメージは大分向上したようだ。
当初、「栄養失調症」と混同するのではないかと危惧したが、
その心配も杞憂だった。
===================================================
話は「痴呆」に戻るが、
今月21日、「痴呆」に替わる用語に関する検討会
(座長=高久史麿自治医科大学長・日本医学会長)
の初会合が開かれた。
「デメンシア(英語名)」
「認知障害」
「認知症」
など、いくつかの案が出たようだが
1つ目の英語名は論外として、
2つ目の「認知障害」は、
認知の障害の意味する範囲が広すぎて
「痴呆」以外の様々な症状も含まれてしまう。
医学的な見地から判断しても適当ではないだろう。
3つ目の「認知症」は「認知」する症状を意味する。
正反対の意味を持つので好ましくない。
それでは、一体どんな呼称が良いのだろう?
「認知低下症」
または、
「認知低下障害」
はどうだろう?
本来、認知機能が高かった人が、
何らかの理由によって認知機能が低くなる
という意味を込めているので、
本人の人格ではなく、疾患を指していることが、
誰にでもわかるだろう。
私、個人的には、
「認知低下症」の方が短くて言いやすく良いと思う。
ここで、「認知低下」の替わりに
「認知力低下」と表現しても良いのだが、
「力」を付加すると、「能力」の意味が強調されてしまうので、
疾患への侮蔑感が高まってしまう。
また「認知低下」の替わりに、
「認知機能低下」と表現すると、
呼称としては長すぎるだろう。
「痴呆症」の表現として、よく、
「精神活動の低下」というキーワードが使われるが
「精神低下症」
「精神低下障害」
とすると、「精神分裂病」と同様に、
人格否定につながる可能性が高い。
そもそも、
「精神」という言葉を疾患名に使うのは好ましくない
というのが、原則と言えるだろう。
従って、「精神病院」という呼称も検討の余地がある。
いずれにせよ、
言葉の持つ力は大きい。
「名は体を表す」という諺や、
言霊(ことだま)
(古代日本で、言葉に宿っていると信じられていた不思議な力)
がある。
人から、
「痴呆症なんですって?」 と言われるのと、
「認知低下症なんですって?」 と言われるのでは、
言われた本人にとっても、家族にとっても
気分的にも気力的にも雲泥の差であること
は誰でもわかるだろう。
古来より言葉の持つ力を信じ、
精妙な使い方を好んだ日本人としては、
呼称の重要さを再認識するべきだろう。
===================================================
痴呆症リンク集@健康ナビ・ドットネット
http://www.kenkounavi.net/site/chihou.htm
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
流音弥
2004年6月25日







