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キスマークの恐怖

「キスマーク」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう?

キスマーク
(1)口紅をつけた女性がキスをしてつけた唇の形の跡。
(2)強くキスをされた肌に残る軽いあざ。
            三省堂提供「大辞林 第二版」より

今では、「キスマーク」と言えば、
後者のことを思い浮かべる人が多いだろう。
私も、そのうちの1人だ。
女性の首筋や胸元は皮膚が余程弱いようで、
ちょっと強くキスすると赤く跡が残ってしまう。
実に不便で後々面倒な身体反応ではある。

だが、ひと昔前までは、「キスマーク」と言えば、
前者を意味することの方が一般的であった。
昔、テレビのバラエティ番組で、
大人の色気たっぷりの女性が色紙やガラスにチュウ
(当時私は子供だったので
 「キス」などという洗練された言葉は知らなかった)
をすると、べったりと赤く上下の唇の形が付き、
それをみんながはやし立てたり、
宝物のように大事に扱ったりしているのを見て、
子供心に不潔な感じがして嫌だったのを覚えている。

昔の私は、ずいぶんとウブで、潔癖症だったのだ。
私はそれがトラウマになっているようで、
口紅をべったり塗りたくった女性が今でも苦手である。
だから、マリリン・モンローも生理的に受け付けない。
女性とキスをする場合でも、
その口紅の量と色によっては、興ざめしてしまう場合もある。

今回のエッセイでは、
私の苦手な「キスマーク」(前者)が引き起こす
社会問題についてとりあげることにする。

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先日、朝の満員電車からやっとのこと降りて、
駅のホームの階段を下りている時のことである。

前を歩いていたサラリーマン風の若い男性の後ろ姿に
私の目は釘付けになった。
彼のグレースーツの背中に、
ワインレッドのキスマークとおぼしき形のマークが付いているのだ。
しかも、1つどころではない。
形がやや崩れているのや色の薄いのも含めると、
なんと、4つもある。

こ、これは、あの「キスマーク」か〜?
久々に見たキスマークに私の心臓は高鳴った。

キスマークの付いている高さから判断すると、
身長約150センチ前後の女性と推定できる。
男性である可能性も残されているが、
男性でありながら口紅をつけるような人は
通常夕方から夜に出没するので、
朝の通勤ラッシュの時間帯においては、
その可能性は非常に低いと考えられるからだ。

小柄な女性が朝の満員電車の中でもみくちゃにされ、
ブレーキの際に人の群れにどど〜っと押されたり、
ぎゅっと押しつぶされたりしている過程で、
彼女の前にいたこの男性の背中にブチュ〜
となったに違いない。
なお、この女性が美人で若い人とは限らない。
もしかしたら、
もの凄く厚化粧の太ったおばさんかもしれないのだ。
知らない内にキスマークをつけられ、
犯人の顔がわからないというのは、
ある意味において幸せなことなのかもしれない。

それにしても、さらに運が悪いことに、
この男性のスーツはグレーだ。
ダーク系に比べてキスマークの色が目立つ。

彼は営業職だろうか?
キスマークに気づかずに
このまま真っ直ぐ顧客の所へ行ったりしたら、
相手にキスマークを指摘されて
気恥ずかしい思いをするのではないだろうか?
また、自分の会社であっても違いは無いかもしれない。
社内の若い女性が目ざとく「キスマーク」を見つけて、
笑い転げたり、からかったり、
周りの人にもその事をふれ回るのではないだろうか?
おそらく彼は、一日中スーツを着ることが出来ないだろう。
意地悪な同僚達であれば、
キスマークのことを彼に告げずに、
陰でクスクス笑っているだろう。

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スーツにキスマークが付くのも悲惨だが、
スーツの上着を脱いで満員電車に乗って、
白いワイシャツにべったりと赤いキスマークが付くのは、
もっと目立つので目も当てられない。
以前、同僚で電車の中でキスマークをワイシャツに付けられて、
一日中ワイシャツを脱げないで怒っている姿を見ている。

それにしても実に災難な話だ。

そして、これは決して他人事ではない。
満員電車に乗れば誰にでも起こりうることなのだ。

私は、キスマークを4つも付けられたサラリーマンを見て以来、
満員電車に乗っている時に、
周りに背の低い女性がいないか、
常に警戒を怠らないようになった。
だが、満員電車では、否が応でも人と接触せざるを得ないし、
周りの人間を選ぶこともできない。

そこで提案だ。
女性は(男性も)満員電車に乗るときは、
口紅をつけてはいけない、または、
口別をつける場合は、
落ちない口紅(以前、CMで盛んに宣伝していた)
をつけることを義務付ける。

もし、それを守らずに、
他人(女性が被害者の場合もありうるので)の服に
キスマークをつけた場合は、罰金に処す。
クリーニング代に加え慰謝料合わせて3万円は取りたいところだ。

一体誰のキスマークか分からなければ意味が無いのでは?
と指摘する方がいるかもしれない。
だが、それは心配無用だ。
唇の形やしわも、指紋と同様に、人によって微妙に異なる。
つまり、バイオメトリクス認証として使えるのだ。
電車に乗る全ての女性の「唇紋」をあらかじめ取って
データベースに登録しておき、
被害者が発生した時に、検索し照合するのである。
誰が加害者であるかは瞬時に分かる。

このような対策が実現すれば、
男性は安心して満員電車に乗ることができるようになるだろう。
女性にとって痴漢が嫌なのと同じく、
男性にとってもキスマークを服につけられるのは嫌なのだ。

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流音弥
2003年6月26日

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